・・・の材料は、昔、高木さんの比較神話学を読んだ時に見た話を少し変えて使った。どこの伝説だか、その本にも書いてなかったように思う。○新小説へ書いた「煙管」の材料も、加州藩の古老に聞いた話を、やはり少し変えて使った。前に出した「虱」とこれと、来・・・ 芥川竜之介 「校正後に」
・・・からですが、高木卓氏が終りが弱いといわれるのも、あなたが題が弱いといわれるのも、つまりは結びの一句が「坂田は急ににこにこした顔になった。そうして雨の音を聞いた」となっていることをいわれたのであろうと思います。どういう雨かとのお問いですが、は・・・ 織田作之助 「吉岡芳兼様へ」
・・・いでやと毛布深くかぶりて、えいさえいさと高城にさしかかれば早や海原も見ゆるに、ひた走りして、ついに五大堂瑞岩寺渡月橋等うちめぐりぬ。乗合い船にのらんとするに、あやにくに客一人もなし。ぜひなく財布のそこをはたきて船を雇えば、ひきちがえて客一人・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・ああ、僕の部屋の机の上に、高木先生の、あの本が載せてあるんだがなあ、と思っても、いまさら、それを取りに行って来るわけにもゆくまい。あの本には、なんでも皆、書かれて在るんだけれど、いまは泣きたくなって、舌もつれ、胴ふるえて、悲鳴に似たかん高い・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・室外の廊下に出て見ると高木さんや中川さんの顔も見えた。みんな外の方を向いて自分の顔を見ないように勉めているらしく思われた。ここで幌を着せられたから自分の眼界はただ方幾寸くらいのセルロイドの窓にかぎられてしまった。寝台はまた静かに持ち上げられ・・・ 寺田寅彦 「病中記」
・・・すると小屋の中には、高木の甲助だの、だいぶ知っている人たちが、みんなおかしいようなまじめなような顔をして、まん中の台の上を見ているのでした。台の上に空気獣がねばりついていたのです。それは大きな平べったいふらふらした白いもので、どこが頭だか口・・・ 宮沢賢治 「祭の晩」
・・・ 高木卓氏の「歴史小説の制約」は示唆にとんだ文章だと思った。歴史を扱った小説は「過去からとび出して現在に迄及ぶこと」すなわち「過去の現在への相応」があるべきものである点、及び歴史小説のその「現代相応的な方法」によって、今日はトンネルがく・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・というにしろ、ただ髷物であれば歴史文学であるという考えかたに反対し、同時に、今日の現実にとり組んで行きにくいからと逃避の方向で歴史の中に素材の求められる態度も、正しい歴史文学への理解でないとするのが、高木卓氏などの見解に代表されている。飽く・・・ 宮本百合子 「歴史と文学」
・・・「是阿弥は高木氏で、小倉はその屋号であった。その団子坂上の質商であったことは伝に云うが如くである。是阿弥の妻をぎんと云って、その子を佐平と云った。また佐平に息真太郎、女啓があった。然るに佐平もその子女も先ず死して、未亡人ぎんが残った。これが・・・ 森鴎外 「細木香以」
出典:青空文庫