・・・ と附け足して、あとから訂正なぞはさせないぞという気勢を示したが、矢部はたじろぐ風も見せずに平気なものだった。実際彼から見ていても、父の申し出の中には、あまりに些末のことにわたって、相手に腹の細さを見透かされはしまいかと思う事もあった。・・・ 有島武郎 「親子」
・・・ ハッとたじろぐ瞬間、抑えてもないロールの柄は彼等の胸から離れた。 コロコロコロ…… 一層惰力のついたロールは、「石! 早く石、石早く突支え!」 と云う叫びがまだ唇を離れないうちに、今の今まで見えていた人の寝姿を押し隠し・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・も婦人の歴史的地位を語る本としてあれほど分って読んだと思うのに、身に迫った男女関係の著しく不幸な戦後的混乱の前には、われからたじろぐ感情があることを、その人は、どんな人生と文学の角度から処置する決意をもつだろう。そのいきさつを肯定するにしろ・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
出典:青空文庫