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・・・巌路へ踏みはだかるように足を拡げ、タタと総身に動揺を加れて、大きな蟹が竜宮の女房を胸に抱いて逆落しの滝に乗るように、ずずずずずと下りて行く。「えらいぞ、権太、怪我をするな。」 と、髯が小走りに、土手の方から後へ下りる。「俺だって・・・
泉鏡花
「縷紅新草」
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・・・川音がタタと鼓草を打って花に日の光が動いたのである。濃く香しい、その幾重の花葩の裡に、幼児の姿は、二つながら吸われて消えた。 ……ものには順がある。――胸のせまるまで、二人が――思わず熟と姉妹の顔を瞻った時、忽ち背中で――もお――と鳴い・・・
泉鏡花
「若菜のうち」