・・・もっともこの測量には多大の費用がかかるのであるが、それは幸いに帝国学士院や、原田積善会、服部報公会等の財団または若干篤志家の有力な援助によって支弁され、そのおかげで次第に観測資料が蓄積され、その結果はわが国の有為な少壮学者らの手によって逐次・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・ある人は面目を一新したと云って多大の希望をかけたようであり、またある人は別段の変りもないと云って落着いていた。前者は相に注目したのであり、後者は本質の事を云ったのであろう。今年も多少の相の変化はあるに相違ない。ある意味では変化し過ぎて困るか・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・ このように時を空間化して取り扱ったために得られる便利は多大なものであるが、しかし人間の直感する「時」の全部はtの符号に含まれていない。 ニュートンの考えたような、現象に無関係な「絶対的の時」はマッハによって批評されたのみならず、輓・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・いは少なかった時代の人間のほうがはるかに利口であったような気もするが、これは疑問として保留するとして、書物の珍しかった時代の人間が書物によって得られた幸福の分量なり強度なりが現代のわれわれのそれよりも多大であったことは確かであろう。蘭学の先・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ ニュース映画はこの意味において人間の頭脳の啓発に多大な役目をつとめるものでなければならない。この点にニュース映画の重大な使命がかかっていると言わなければならない。 ずっと前に、週刊ロンドン・タイムスで、かの地の裁判所における刑事裁・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・彼の歿後ほとんど十年になろうとする今日、彼のわざわざ余のために描いた一輪の東菊の中に、確にこの一拙字を認める事のできたのは、その結果が余をして失笑せしむると、感服せしむるとに論なく、余にとっては多大の興味がある。ただ画がいかにも淋しい。でき・・・ 夏目漱石 「子規の画」
・・・ そういう訳で、自分は多大の興味をもってこの長い手紙をくすくす笑いながら読んだ。そうして読みながら、こんなに女から思われている色男は、いったい何者だろうかとの好奇心を、最後の一行が尽きて、名あての名が自分の目の前に現われるまで引きずって・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・ら、その一方を代表なさる諸君が文学の方面にも一種の興味をもたれて、われわれのような不調法ものの講話を御参考に供して下さるのは、この両者の接触上から見て、諸君の前に卑見を開陳すべき第一の機会を捕えた私は多大の名誉と感ずる次第であります。できな・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ とにかく余は今度我子の果敢なき死ということによりて、多大の教訓を得た。名利を思うて煩悶絶間なき心の上に、一杓の冷水を浴びせかけられたような心持がして、一種の涼味を感ずると共に、心の奥より秋の日のような清く温き光が照して、凡ての人の上に・・・ 西田幾多郎 「我が子の死」
・・・ 魯迅は一九三五年ごろに、中国の新しい文化の発展のために多大の貢献をした一つの仕事として、ケーテ・コルヴィッツの作品集を刊行した。その中国版のケーテの作品集には、ケーテの国際的な女友達の一人であるアグネス・スメドレイの序文がつけられた。・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
出典:青空文庫