・・・死にかた、或は死なせかたの諸相が、その時代のものとしてこの一篇には実にまざまざと多面的に取上げられている。人間同士の友誼が、対手の死なせかたに表現されなければならなかった当時のモラルも柄本又七郎の行動で表徴されているし、悪意ある方策によって・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・一人として、過度な緊張からくる一種の疲労を感じないもののない程、我々人間は、人間の小細工でこしらえすぎた過去の文化に対して連帯責任を持っているし、他面から考えれば、そんなことを、都会人らしい感傷と女々しさでくどくどいっていられない、大切の時・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」
・・・当時の権力はまんなかに治安維持法の極端な殺人的操法をあらわに据えて、それで嚇し嚇し、一方では正直に勇敢だった人々を益々強固な抵抗におき、孤立させ、運動を縮みさせ、他面では、すべての平凡な心情を恐怖においたてて、根本は治安維持法に対するその恐・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
今日家庭というものを考える私たちの心持は、おのずから多面複雑だと思う。 家庭は今日大事とされている。貯蓄のことも、生めよ、殖せよということも、モラル粛正も、専ら家庭内の実行にかけられている。 昨夜の夕刊には、大蔵省・・・ 宮本百合子 「家庭と学生」
・・・それは、ヨーロッパにおいてのフランスが、封建時代からより進んだ文化をもちつづけて今日に到ったからでもあるが、他面には、パリというものがもちつづけたその伝統的な地位によって、おのずから文化において世界最大の取引市場の一つとなっていることからも・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・ 民主的批評は、たしかに、新しくてしなやかに若い四肢をもとうとしている。多面的であろうとしている。しかし、それがたやすい仕事でないことは、たとえば『新日本文学』六月号瀬沼茂樹の作品評に示されていたと思う。瀬沼茂樹は去年の末、批評の無力論・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・ これらのしめくくりは、しかし、去年という三百六十五日の間にわたしたちが生活と文学との肌身へじかにうけて生きて来た激しい暑さ、さむさ、ほこりっぽい複雑さのいろいろを、その深さ、その多面なひろがりそのものにおいて整理したものであると言えた・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ ソヴェトではいかに文字が実際生活の理解、建設に必須な武器かということは、一ヵ月この驚くべく前進的で柔軟性に富んだ多面な新社会の中に生活して見れば忽ちわかる。 たとえば日本女は小説を書くのが本職である。だから、未来に於てソヴェトの芸・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ そして、このような成長も、考えてみれば、つづまるところ婦人の文化資質のより高い、より多面な開花にまたなければならないということを、意味ふかく感じる。 宮本百合子 「子供のためには」
・・・ 全集の普及は、わたしたちすべての人民が、歴史における運命を一歩前進させるための足がかりとして小林多喜二の生涯と文学とを、あらゆる角度から多面的に摂取するための何よりの機会である。〔一九四九年二月〕・・・ 宮本百合子 「小林多喜二の今日における意義」
出典:青空文庫