・・・作家としての自分が従来の作品の文学性の砦の胸壁のようにそこへ胸をもたせかけて来ていた人情というものをその現実のありようの多面のままにどこまでさわり以上のものとして発展させてゆくか。云ってみれば、これまでの自分にいかに幻滅し得る勇気をもってい・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
一、文学者ではスタンダールというひとをこの頃おもしろく思って居ります。スタンダールは一八三〇年代のフランスで実に珍しい気骨のある多面的な人であったようです。「赤と黒」を、恋愛を主題とした小説と云われているのは一面にすぎませ・・・ 宮本百合子 「でんきアンケート」
・・・わたしの理解するところでは、小林多喜二的身がまえというどちらかというと舌足らずな表現は、作家小林多喜二のあの精力的な、多面的な活動意慾と、解放運動の刻々の進展につれて、容赦なく自身を鞭撻しその課題に献身した、男らしいそしていかにも階級的芸術・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・ 一人一人の作家がそれぞれにちがうという必然は、だが他面に何か通有な一つ二つの文学としての希望、願望、更につよくは意欲という風なものを持ってはいないだろうか。 どんな時代にも、作家は現実にたえるものとして自分の作品を生もうとして来た・・・ 宮本百合子 「日本の河童」
・・・秋田の鉱山に生い立った彼女は、プロレタリア文学運動の時代、婦人作家として一定の成長をとげた技量を、現在の多面な民主的政治的活動のうちに結実させようとしている小説「尾」そのほか多くのルポルタージュ、民主主義文学についての感想などがかかれはじめ・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・婦人の生活、婦人の文化的な創造力の消長というようなものも、基本はここに根ざして、深刻多面な姿を示している。 過去の長い人類文化の歴史のなかで、婦人の創造力が発揮された面というと、それにつれては芸術的な領野が思い浮べられ、特に音楽、文学、・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・ 二三年前、文学における古典の摂取が云われはじめた時分は、プロレタリア文学運動の退潮を余儀なくさせた社会事情が他面対立的な文学にも貧困の自覚を与えており、それに対して文芸復興が唱えられ、古典の摂取は、当時にあっては、現代の文学的発展のた・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・文学の将来性への希望として真面目にみられるものならば、地方分散の問題は、日本の文化のありようの多面な立体的な諸角度から着実に追求され、究明され、客観的な自身の歴史の意味をも思いひそめて、自他ともに扱うべきものだろうと思われる。更に日本の文学・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
・・・階級性がなくて多面性がない。観念的である。二 宮本百合子は、ごうまんで天狗になっている。現代の紫式部と自任し、うぬぼれ、自己陶酔して、こたつにあたったような暮しをしている。三 立候補しない。だから党的に成長しない。四 宮本百合子・・・ 宮本百合子 「文学について」
・・・ 文学精神の明るさというものは、現象に目を奪われて、ものごとの一面に明るさを、他面に暗さを単純な対比として感じとる範囲でいわれるべきではないであろう。もっと、事象を歴史の上に射透す精神の光波をさすべきであろう。明暗をひっくるめてその関係・・・ 宮本百合子 「文学は常に具体的」
出典:青空文庫