・・・ときまった人間ならもうモルヒネ中毒の惧れもないはずだのに、あまり打たぬようにと注意するところを見れば、万に一つ治る奇蹟があるのだろうかと、寺田は希望を捨てず、日頃けちくさい男だのに新聞広告で見た高価な短波治療機を取り寄せたり、枇杷の葉療法の・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・ラジオの短波は科学的発達の一定段階に立ってはじめて人間の支配下におかれた現象であろうが、それが今日大衆の日常の裡に血肉化されているかと云えば、そうではないのが現実である。短波がどうであろうと、一見民衆の生活にかかわりないようないきさつに置か・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
・・・そのドニェプル発電所の再建からはじまって、スターリングラードの名誉ある復興、ウクライナ全地域、ドン全区にわたる生産復興は、短波できくニュースでもわかるとおり世界をおどろかせる能率で捗っている。 文化の分野でも、戦後における再検討、より高・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・世界の声のきける短波のラジオは使用禁止され、ラジオは軍部、情報局のさしずどおり、一九四五年八月のあと、大部分が虚偽であったとわかった大本営発表を叫びつづけていた。母子の愛情、夫婦や愛人同士の愛や希望や計画などは、ほんとに口に出すことの許され・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・ 生活の実感は短波が日常に及ぼす速報につれて短時間に拡大し、複雑化し、手に負えないほどになっているのに、文学の創作方法は、その実感の大きさ、ひろさ、量感をそのままとらえて再現するだけに拡大されていない。ここに、こんにちの日本の文学の深刻・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・ ラジオ屋と警官とが一組ずつとなって、東京各区をめぐり、ひとの家に急に入って来て短波受信機の設備の有無を調べ、もしあればそれを没収したり、処罰したりしたのは、いつのことであったろう。二年ほど前の初夏の頃であったと覚えている。 没収し・・・ 宮本百合子 「みのりを豊かに」
・・・日本の民間のラジオ機は短波を受けられないことになっている。短波こそ、今日の電波の世界の尖端の活動をしているのである。 ラジオ・サービスとして移動ラジオ相談所を設けたり、明朗聴取運動をおこしたり、様々の点で聴取者の便宜は考えられている。そ・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
出典:青空文庫