・・・「わしは山岡大夫という船乗りじゃ。このごろこの土地を人買いが立ち廻るというので、国守が旅人に宿を貸すことを差し止めた。人買いをつかまえることは、国守の手に合わぬと見える。気の毒なは旅人じゃ。そこでわしは旅人を救うてやろうと思い立った。さいわ・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・こいつなら大分大っきな卵を産みよるやろ?」「勘はな?」「さア、今そこにうろうろしていらったが。」 安次は三尺の中から丸めた紙幣をとり出した。「お霜さん。これ持っててくれんかな。二円五十銭あるのやが、何ぞの足しに、ならんかな。・・・ 横光利一 「南北」
芸術の検閲 ロダンの「接吻」が公開を禁止されたとき、大分いろいろな議論が起こった。がその議論の多くは、検閲官を芸術の評価者ででもあるように考えている点で、根本に見当違いがあったと思う。 検閲官は芸術の解らない人であって・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫