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・・・ 屋内ではぺーチカを焚き、暖気が充ちている。その気はいが、扉の外から既に感じられた。「今晩は。」「どうぞ、いらっしゃい。」 朗らかで張りのある女の声が扉を通してひびいて来た。「まあ、ヨシナガサン! いらっしゃい。」 ・・・
黒島伝治
「渦巻ける烏の群」
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・・・北海道にめずらしいベタベタした「暖気雪」が降っていた。出口にちょっと立ち止まって、手袋をはきながら、龍介は自分が火の気のない二階で「つくねん」と本を読むことをフト思った。彼はまるで、一つの端から他の端へ一直線に線を引くように、自家へ帰ること・・・
小林多喜二
「雪の夜」