・・・なにしろお嬢さんがちかちか動物電気を送るんで、僕はとても長くいたたまれなかった。どうして最も美を憧憬する僕たちの世界には、ナチュール・モルトのほかに美がとりつかないんだろうかなあ。瀬古 どうかしてそのお嬢さんを描こうじゃないか。青・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・ 大きな ぞうが、おうらいを あるいて きました。サーカスが、どこかへ いくのです。 ちかちか ひかる、青い きものを きた おねえさんと、くろい ズボンを はいた 男が、むちを もって、ついて きます。「こわいわ。」と、よ・・・ 小川未明 「お月さまと ぞう」
・・・ 青扇はひくい声でそう言ったのであるが、あたりの静かなせいか、僕にはそれが異様にちかちか痛く響いた。彼は月の光りさえまぶしいらしく、眉をひそめて僕たちをおどおど眺めていた。 僕は、今晩はと挨拶したのである。「今晩は。おおやさん。・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・涙が出て出て、やがて眼玉がちかちか痛み、次第にあたりの色が変っていった。私は、眼に色ガラスのようなものでもかかったのかと思い、それをとりはずそうとして、なんどもなんども目蓋をつまんだ。私は誰かのふところの中にいて、囲炉裏の焔を眺めていた。焔・・・ 太宰治 「玩具」
・・・ 野も山も新緑で、はだかになってしまいたいほど温く、私には、新緑がまぶしく、眼にちかちか痛くって、ひとり、いろいろ考えごとをしながら帯の間に片手をそっと差しいれ、うなだれて野道を歩き、考えること、考えること、みんな苦しいことばかりで息が・・・ 太宰治 「葉桜と魔笛」
・・・宮中の賀式に列するらしい式服の軍人や文官が、腕車や自動車で飾羽根をなびかせ乍ら馳け違う。ちかちか燦く濠の水の面や、嬉しそうな小学生、靄の中から浮んだ石崖、松の姿を、自分は、新らしい宝のように眺め、いつくしんだ。・・・ 宮本百合子 「又、家」
出典:青空文庫