・・・廓へ近き畦道も、右か左か白妙に、この間に早瀬主税、お蔦とともに仮色使と行逢いつつ、登場。往来のなきを幸に、人目を忍び彳みて、仮色使の退場する時、早瀬お蔦と立留る。お蔦 貴方……貴方。・・・ 泉鏡花 「湯島の境内」
・・・その満足・幸福の点においては、七十余歳の吉田忠左衛門も、十六歳の大石主税も、同じであった。その死の社会的価値もまた、寿夭の如何に関するところはないのである。 人生、死に所を得ることはむつかしい。正行でも重成でも主税でも、短命にして、かつ・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・を出すことなかったであろう歟、生死孰れが彼等の為めに幸福なりし歟、是れ問題である、兎に角、彼等は一死を分として満足・幸福に感じて屠腹した、其満足・幸福の点に於ては、七十余歳の吉田忠左衛門も十六歳の大石主税も同じであった、其死の社会的価値も亦・・・ 幸徳秋水 「死生」
出典:青空文庫