・・・金銭にかけると抜目がなくちゃっかりしていると、軽蔑しているのである。辻という姓だから、あの男は十にしんにゅうをかけたような男だと、極言するひとさえいる位だ。 それはひどいと私はそんな噂を聴いた時思った。しかし、彼の仕事振りを見ていると、・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・「五十銭でございます。」「それでは、親子どんぶり一つだ。一つでいい。それから、番茶を一ぱい下さい。」「ちえっ、」少年は躊躇なく私をせせら笑った。「ちゃっかりしていやがら。」 私は、溜息をついた。なんと言われても、致しかたの無いこ・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・女の子って、実に抜け目が無く、自分の事ばかり考えて、ちゃっかりしているものだと思った。織女さまのおよろこびに附け込んで、自分たちの願いをきいてもらおうと計画するなど、まことに実利的で、ずるいと思った。だいいち、それでは織女星に気の毒である。・・・ 太宰治 「作家の手帖」
・・・村々は、素知らぬ振りして、ちゃっかり生活を営んでいる。旅行者などを、てんで黙殺している。佐渡は、生活しています。一言にして語ればそれだ。なんの興も無い。 二時間ちかくバスにゆられて、相川に着いた。ここも、やはり房州あたりの漁村の感じであ・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・そういうDさんだって、僕があの人の日常生活を親しくちょいちょい覗いてみたところに依ると、なあに御自分の好き嫌いを基準にしてちゃっかり生活しているんだ。あの人は、嘘つきだ。僕は俗物だって何だってかまわない。事実を、そのままはっきり言うのは、僕・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ またもお世辞の失敗か。むずかしいものだ。「お茶でも飲みましょう。」 たかってやれ。「ええ、でも、わたくし、今夜は失礼しますわ。」 ちゃっかりしていやがる。でも、こんな女房を持ったら、亭主は楽だろう。やりくりが上手にちが・・・ 太宰治 「渡り鳥」
出典:青空文庫