・・・という身体つきの徳を持っている、これもなかなかの功を経ているものなので、若崎の言葉の中心にはかまわずに、やはり先輩ぶりの態度を崩さず、「それで家へ帰って不機嫌だったというのなら、君はまだ若過ぎるよ。議論みたようなことは、あれは新聞屋や雑・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・刑死の人には、実に盗賊あり、殺人あり、放火あり、乱臣・賊子あると同時に、賢哲あり、忠臣あり、学者あり、詩人あり、愛国者・改革者もあるのである。これは、ただ目下のわたくしが、心にうかびでるままに、その二、三をあげたのである。もしわたくしの手も・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・比干や商鞅も韓非も高青邱も呉子胥も文天祥も死刑となった、木内宗五も吉田松蔭も雲井龍雄も江藤新平も赤井景韶も富松正安も死刑となった、刑死の人には実に盗賊あり殺人あり放火あり乱臣賊子あると同時に、賢哲あり忠臣あり学者あり詩人あり愛国者・改革者も・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・お前は今運動が一番進んでいる中心地にいる。今度はこっちのことをどう考えるか、お前の手紙を待っている。 小林多喜二 「母たち」
・・・と月始めに魚一尾がそれとなく報酬の花鳥使まいらせ候の韻を蹈んできっときっとの呼出状今方貸小袖を温習かけた奥の小座敷へ俊雄を引き入れまだ笑ったばかりの耳元へ旦那のお来臨と二十銭銀貨に忠義を売るお何どんの注進ちぇッと舌打ちしながら明日と詞約えて・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・殊に雑誌が雑誌だったから、婦人に読ませるということを中心にして、題目を択んだものもあった。処女の純潔を論じたり、その他恋愛観なぞを書き現わしたものにも、一面婦人のために書いているような趣きのあるのはその故である。その頃女学雑誌には星野天知君・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・つまり名といい、利といい、身といい、家という、無形、有形、単純、複雑の別はあっても、詮ずるところ自己の生という中心意義を離れては、道徳も最後の一石に徹しない。直観道学はそれを打ち消して利己以上の発足点を説こうけれども、自分らの知識は、どうも・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・その諦めもほんの上っ面のもので、衷心に存する不平や疑惑を拭い去る力のあるものではない。しかたがないからという諦めである。三 ここまで回顧して来て、いつも思い悩むのはその奥である。何が自分をして諦めさせるのだろう。私に取っては・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・キリスト教に於いても、日本は、これから世界の中心になるのではないかと思っています。最近の欧米人のキリスト教は実に、いい加減のものです。」「そろそろ展覧会の季節になりましたが、何か、ごらんになりましたか。」「まだどこの展覧会も見ていま・・・ 太宰治 「一問一答」
・・・ この巻の井伏さんの、ゆるやかな旅行見聞記みたいな作品をお読みになりながら、以上の私の注進も、読者はその胸のどこかの片隅に湛えておいて頂けたら、うれしい。 井伏さんと私と一緒に旅行したことのさまざまの思い出は、また、のちの巻の後記に・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
出典:青空文庫