・・・ 一 町なかの公園に道化方の出て勤める小屋があって、そこに妙な男がいた。名をツァウォツキイと云った。ツァウォツキイはえらい喧嘩坊で、誰をでも相手に喧嘩をする。人を打つ。どうかすると小刀で衝く。窃盗をする。詐偽をする。・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・すなわち画布や絵の具が写実を不可能にするゆえに、写実の代わりに、真実を暗示する色や線によって、ある気分、ある情緒を現わそうと努めるに至るのではないか。 しかし以上はただ一方からの観察である。現在の状況を基礎として考えればこうも見られるで・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・ついに家中の十人の内九人までが軽薄なへつらい者になり、互いに利害相結んで、仲間ぼめと正直者の排除に努める。しかも大将は、うぬぼれのゆえに、この事態に気づかない。百人の中に四、五人の賢人があっても目にはつかない。いざという時には、この四、五人・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・彼女がある役を勤める時には意志の力によって自己をその女に同化してしまう。彼女の感情はその女の感情と同一である。悲しむべき時には泣くまねをするというのではなく、真に感情が動き、真実なる表情となるのである。劇場的身ぶり、誇大したる表情は彼女に見・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫