・・・と同時に汗の玉も、つぶつぶ顔にたまり出した。孫七は今心の眼に、彼の霊魂を見ているのである。彼の霊魂を奪い合う天使と悪魔とを見ているのである。もしその時足もとのおぎんが泣き伏した顔を挙げずにいたら、――いや、もうおぎんは顔を挙げた。しかも涙に・・・ 芥川竜之介 「おぎん」
・・・奈々子は満足の色を笑いにたたわして、雪子とお児の間にはさまりつつ雛を見る。つぶつぶ絣の単物に桃色のへこ帯を後ろにたれ、小さな膝を折ってその両膝に罪のない手を乗せてしゃがんでいる。雪子もお児もながら、いちばん小さい奈々子のふうがことに親の目を・・・ 伊藤左千夫 「奈々子」
・・・片口は無いと見えて山形に五の字の描かれた一升徳利は火鉢の横に侍坐せしめられ、駕籠屋の腕と云っては時代違いの見立となれど、文身の様に雲竜などの模様がつぶつぶで記された型絵の燗徳利は女の左の手に、いずれ内部は磁器ぐすりのかかっていようという薄鍋・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・寒晒の粉のつぶつぶした、皮鯨に似た菓子である。夏来たことがめったにないので、道太には珍らしかった。「おいしいかどうだか、食べてごらんなさい」「これあうまい。いろんな菓子があるんだね」道太は一つ摘みながら言った。 それからむだ話を・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・そのなめらかな天井を、つぶつぶ暗い泡が流れて行きます。『クラムボンはわらっていたよ。』『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』『それならなぜクラムボンはわらったの。』『知らない。 つぶつぶ泡が流れて行きます。蟹の子供らもぽっ・・・ 宮沢賢治 「やまなし」
出典:青空文庫