・・・その人たちにとっては、私の提議は半顧の価値もなかるべきはずのものだ。私はそれほどまでに真に純粋に芸術に没頭しうる芸術家を尊もう。私はある主義者たちのように、そういう人たちを頭から愚物視することはできない。かかる人はいかなる時代にも人間全体に・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・はすでに五年の間間断なき論争を続けられてきたにかかわらず、今日なおその最も一般的なる定義をさえ与えられずにいるのみならず、事実においてすでに純粋自然主義がその理論上の最後を告げているにかかわらず、同じ名の下に繰返さるるまったくべつな主張と、・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・晩年一部の好書家が斎展覧会を催したらドウだろうと鴎外に提議したところが、鴎外は大賛成で、博物館の一部を貸してもイイという咄があった。鴎外の賛成を得て話は着々進行しそうであったが、好書家ナンテものは蒐集には極めて熱心であっても、展覧会ナゾは気・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・余り評判にもならなかったが、那翁三世が幕府の遣使栗本に兵力を貸そうと提議した顛末を夢物語風に書いたもので、文章は乾枯びていたが月並な翻訳伝記の『経世偉勲』よりも面白く読まれた。『経世偉勲』は実は再び世間に顔を出すほどの著述ではないが、ジスレ・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・さりとて継母の提議に従って、山から材木を出すトロッコの後押しに出て、三十銭ずつの日手間を取る決心になったとして、それでいっさいが解決されるものとも、彼には考えられなかった。 初夏からかけて、よく家の中へ蜥蜴やら異様な毛虫やらがはいってき・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・そのことについては吉田は自分のことも考え、また母親のことも考えて看護婦を呼ぶことを提議したのだったが、母親は「自分さえ辛抱すればやっていける」という吉田にとっては非常に苦痛な考えを固執していてそれを取り上げなかった。そしてこんな場合になって・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・と畳の上に指先で○を書き、「円の定義を平気な顔で暗誦したものだ、君、斯ういう先生と約一ヶ月半も僕は膳を並べて酒を呑んだのだから堪らない。」「それはお互いサ」と神崎少しも驚かない。「然し相かわらず議論は激しかったろう」と大友はにこ・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・ かくの如きはカントの主観主義、形式主義を継承するリップスの倫理学の定義であるが、かかる倫理学が答え得ることは人間の意志そのものの形式に終始せざるを得ず「いかに」のみに答えて、「何を」に答えることができない。「何々せよ」「何々するなかれ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・近来大に進歩して、細君はこの提議をしたのである。ところが、「なぜサ。」と善良な夫は反問の言外に明らかにそんなことはせずとよいと否定してしまった。是非も無い、簡素な晩食は平常の通りに済まされたが、主人の様子は平常の通りでは無かった。激・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・馬鹿馬鹿しい死の定義を立てて断言することの出来る豪傑があるか。ナンノつまらない、死という言語は千年もたてば字引の中になくなるべき言語だよ。ナニ驚くには足らない、極りきッた論サ。死は休なりとか、死は静なりとか、死は動力の不存在なりとか、死は自・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
出典:青空文庫