・・・それに、ルドルフ島の天候も私の本にあるのと、全く同じです」「操縦士の空想」を現実のものとして彼等が北極に学術探検隊をおくることに成功したとき、遙かかなたの首府では、この小説が劇場に上演されていることをラジオで知るそのこともよろこびをもっ・・・ 宮本百合子 「文学のひろがり」
・・・大嘗会というのは、貞享四年に東山天皇の盛儀があってから、桂屋太郎兵衛の事を書いた高札の立った元文三年十一月二十三日の直前、同じ月の十九日に五十一年目に、桜町天皇が挙行したもうまで、中絶していたのである。・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・神話時代には天皇は、宇宙の主宰者たる天照大神の代表者であった。天照大神は信仰の対象であって現実的に経験のできるものでない。それは理論的に言えば一切のものの根源たる一つの理念である。この理念の代表者或いは象徴であるがゆえに神聖な権威があったの・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・我々は今人間生活の大きい厳粛な転向点に立っているのである。三 現戦争がこのように大きい変革を世界史の上にもたらすとすれば、戦後の芸術はどうなるであろうか。 第一に考えられるのは、一般民衆が勢力を得るとともに、在来の貴族的・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
一 過去の生活が突然新しい意義を帯びて力強く現在の生活を動かし初めることがある。その時には生のリズムや転向が著しく過去の生活に刺激され導かれている。そうしてすべての過去が「過ぎ去って」はいないことを思わせる。機縁の成熟は「過去」・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫