・・・さればこそ習慣は第二の天性を成すといい、幼稚の性質は百歳までともいう程のことにて、真に人の賢不肖は、父母家庭の教育次第なりというも可なり。家庭の教育、謹むべきなり。 然るに今、この大切なる仕事を引受けたる世間の父母を見るに、かつて子を家・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・人として平安を好むは、これをその天性というべきか、はた習慣というべきか。余は宗教の天然説を度外視する者なれば、天の約束というも、人為の習慣というも、そのへんはこれを人々の所見にまかして問うことなしといえども、ただ平安を好むの一事にいたりては・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・ 古来、支那・日本人のあまり心付かざることなれども、人間の天性に自主・自由という道あり。ひと口に自由といえば我儘のように聞こゆれども、決して然らず。自由とは、他人の妨をなさずして我が心のままに事を行うの義なり。父子・君臣・夫婦・朋友、た・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・にひきずられて、天性の重厚のままにとりかえしのつかないほど歪み萎えさせられたところにある。 森鴎外にしろ、夏目漱石にしろ、荷風にしろ、当時の社会環境との対決において自分のうちにある日本的なものとヨーロッパ的なものとの対立にくるしんだ例は・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・子供の日にちなんで、五月二日の朝日新聞「天声人語」に「ケティを救え」の物語がのっていた。四月八日の午後、カリフォルニア州サン・マリノ町であき地に遊んでいたケティという三つの女の児が、草むらにかくれていた古井戸へおっこちた。サン・マリノのその・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・資本というものの天性は、一つの悪鬼に似ている。人間の労力から生まれた資本はためこまれて、やがて人間を喰いはじめ、その精神的所産までを貪婪に食いつくそうとする。それに対して、ヨーロッパは、自身の流血をもって闘った。第二次世界戦争の結果は、こう・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・マーニャが、天性の勤勉さ、緻密で、敏活な頭脳を、こうしてごく若いころから自分の功名のためだけに使おうなどとは思いもしなかった気質こそ、後年キュリー夫人として科学者、人間としての彼女の真価をきめるものとなったと思います。 姉のブローニャが・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・ 婦人が、天成の直観で、不具な形に出来上って人民の重荷であった過去の日本の「政治」に、自分たちをあてはめかねているのは、面白いことだと思う。婦人の責任は、身に合いかねる過去の社会きりまわしの形を、娘として、妻として、母としての自分たちの・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・ 棄てられた女は、さんざん苦しんだあげく、だんだん霊の不滅、輪廻転生の教えを美しいものと信じるようになり、霊交術にまで熱中しだす。そして、ギリシア神話のように、死んだ男は早ざきのつぼみを持つ紅梅に生れかわっているという幻をえがき、「心を・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・生と闘いつつ、親族に労働者として働いている者が一人もなかったため、小僧働きの環境はいつも手近な縁を辿って都市的な小市民的雰囲気に限られていたこと、その窒息的に濃い重い執こい空気の中で少年ゴーリキイが、天成の素質の健康さによって二六時中身をも・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫