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・・・彼女が空虚なるカアル劇場に歩み入った時には一人として彼女を知る者はなかったが、その夜、全市の声は彼女の名を讃えてヴァイオリンのごとく打ち震い、全市の感覚は激動の後渦巻のごとく混乱した。 やがて彼女はベルリンに現われたが冷静なるハルデン氏・・・
和辻哲郎
「エレオノラ・デュウゼ」
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・・・たとい彼がその作品の芸術的価値を充分理解し得るようになったところで、公衆に対する作品の影響が依然として同一である限りは、彼はその禁止を解くことができない。 そこで中心の問題は、公衆に対する作品の影響が、果たして精確に判定せられているか否・・・
和辻哲郎
「蝸牛の角」