・・・予は是において将に自ら予が我分身の鴎外と共に死んで、新しい時代の新しい文学を味わうことを得ないようになったかを疑わんとするに至った。然るにここに幸なるは、一事の我趣味の猶依然たることを証するに足るものがある。それは何であるか。予は我読書癖の・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・全世界を震撼させたナポレオンの一個の意志は、全力を挙げて、一枚の紙のごとき田虫と共に格闘した。しかし、最後にのた打ちながら征服しなければならなかったものは、ナポレオン・ボナパルトであった。彼は高価な寝台の彫刻に腹を当てて、打ちひしがれた獅子・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・がそう考えて来ると共に、現在の組織制度がもはや父のごとき志を実行不可能なものにしていることにも自ら気づかざるを得なくなった。 自ら直接に皇室に接することのできる人々は別である。一平民として今自ら皇室を警衛しようと欲するものは、一体どうい・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫