・・・その僕の感想文というのは、階級意識の確在を肯定し、その意識が単に相異なった二階級間の反目的意識に止まらず、かかる傾向を生じた根柢に、各階級に特異な動向が働いているのを認め、そしてその動向は永年にわたる生活と習慣とが馴致したもので、両階級の間・・・ 有島武郎 「片信」
・・・ こういえば、理窟もつけよう、またどうこうというけれどね、年よりのためにも他人の交らない方が気楽で可いかも知れません。お民さん、貴女がこうやって遊びに来てくれたって、知らない婦人が居ようより、阿母と私ばかりの方が、御馳走は届かないにした・・・ 泉鏡花 「女客」
・・・私は、当日、小作の挿画のために、場所の実写を誂えるのに同行して、麻布我善坊から、狸穴辺――化けるのかと、すぐまたおなかまから苦情が出そうである。が、憚りながらそうではない。我ながらちょっとしおらしいほどに思う。かつて少年の頃、師家の玄関番を・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・車麩の鼠に怯えた様子では、同行を否定されそうな形勢だった処から、「お町さん、念仏を唱えるばかり吃驚した、厠の戸の白い手も、先へ入っていた女が、人影に急いで扉を閉めただけの事で、何でもないのだ。」と、おくれ馳せながら、正体見たり枯尾花流に――・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・さて、ついでに私の意気になった処を見され、御同行の婆々どのの丹精じゃ。その婆々どのから、くれぐれも、よろしゅうとな。いやしからば。村越 是非近々に。七左 おんでもない。晩にも出直す。や、今度は長尻長左衛門じゃぞ。奥方、農産会に出た、・・・ 泉鏡花 「錦染滝白糸」
・・・百里遠来同好の友を訪ねて、早く退屈を感じたる予は、余りの手持無沙汰に、袂を探って好きもせぬ巻煙草に火をつけた。菓子か何か持って出てきた岡村は、「近頃君も煙草をやるのか、君は煙草をやらぬ様に思っていた」「ウンやるんじゃない板面なのさ。・・・ 伊藤左千夫 「浜菊」
・・・ 予は渋川に逢うや否や、直ぐに直江津に同行せよと勧め、渋川が呆れてるのを無理に同意さした。茶を持ってきた岡村に西行汽車の柏崎発は何時かと云えば、十一時二十分と十二時二十分だという。それでは其十一時二十分にしようときめる。岡村はそれでは直・・・ 伊藤左千夫 「浜菊」
・・・おとよはもちろん千葉まで同行して送るつもりであったが、汽車が動き出すと、おはまはかねて切符を買っていたとみえしゃにむに乗り込んでしまった。 汽車が日向駅を過ぎて、八街に着かんとする頃から、おはまは泣き出し、自分でも自分が抑えられないさま・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・暇乞いして帰ろうとすると、停車場まで送ろうといって、たった二、三丁であるが隈なく霽れた月の晩をブラブラ同行した。 満月ではなかったが、一点の曇りもない冴えた月夜で、丘の上から遠く望むと、見渡す果もなく一面に銀泥を刷いたように白い光で包ま・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ この理由は、個人の研究や、創造はいかに貴くとも幾十年の間も、その光輝を失わぬものは少ないけれど、これに反し、集団の行動は、その動向を知るだけでも時代が分るためです。故にその時代を見ようと思えば、当時の雑誌こそ、何より有益な文献でなけれ・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
出典:青空文庫