・・・ただお前が、こっそり誰かと文通しているらしいという事、たまにはお金も送られて来る様子だし、睦子が時々、東京のオジちゃんがどうのこうのと言うし、それは、あさでなくったって勘附くわけだ。 でも、お父さんは知らなかったのでしょう?夢にもそ・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・ 露伴の文章がどうのこうのと、このごろ、やかましく言われているけれども、それは露伴の五重塔や一口剣などむかしの佳品を読まないひとの言うことではないのか。 王勝間にも以下の文章あり。「今の世の人、神の御社は寂しく物さびたるを尊しと思ふ・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・鶯色のリボン、繻珍の鼻緒、おろし立ての白足袋、それを見ると、もうその胸はなんとなくときめいて、そのくせどうのこうのと言うのでもないが、ただ嬉しく、そわそわして、その先へ追い越すのがなんだか惜しいような気がする様子である。男はこの女を既に見知・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・ それをどうのこうのと云うほど男には落ついた心がなかった。手の先をふるわせながら、「一体マアお前は幾人男を勝手きままにして居るんだい?」 息づまる様な声で男は云った。「幾人? 世の中の男はみんな私が勝手きままに出来るもんです・・・ 宮本百合子 「お女郎蜘蛛」
・・・学生は堕落していて、ワグネルがどうのこうのと云って、女色に迷うお手本のトリスタンなんぞを聞いて喜ぶのである。男の贔屓は下町にある。代を譲った倅が店を三越まがいにするのに不平である老舗の隠居もあれば、横町の師匠の所へ友達が清元の稽古に往くのを・・・ 森鴎外 「余興」
出典:青空文庫