・・・では、どうもいろいろ。」 客はまた旅へ出ていった。 灸は雨が降ると悲しかった。向うの山が雲の中に隠れてしまう。路の上には水が溜った。河は激しい音を立てて濁り出す。枯木は山の方から流れて来る。「雨、こんこん降るなよ。 屋根・・・ 横光利一 「赤い着物」
・・・ヤアコップセンは好きですからね。どうもこの頃の人の書くものは。」手で拒絶するような振をした。 己は自分の事を末流だと諦めてはいるが、それでも少し侮辱せられたような気がした。そこで会釈をして、その場を退いた。 夕食の時、己がおばさんに・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・この手紙の慌てたような、不揃いな行を見れば見る程、どうも自分は死にかかっている人の所へ行くのではないかと思うような気がする。そこで気分はいよいよ悪くなる。弟は自分より七年後に、晩年の父が生ませた子である。元から余り気に入らない。なんだか病身・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・――しかし難を言えば、どうも湯の色が冷たい。透明を示すため横線を並べた湯の描き方も、滑らかに重い温泉の感じを消している。それに湯に浸った女の顔が全体の気分と調和しない。あの首を前へ垂れた格好も、少し無理である。 しかし立場を換えてこの画・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫