・・・「だってこうなってからというものア運とは云いながら為ることも為ることもどじを踏んで、旨え酒一つ飲ませようじゃあ無し面白い目一つ見せようじゃあ無し、おまけに先月あらいざらい何もかも無くしてしまってからあ、寒蛬の悪く啼きやあがるのに、よじり・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・見受ける処がよほど酩酊のようじゃが内には女房も待っちょるだろうから早う帰ってはどじゃろうかい。有り難うございます。………世の中に何が有難いッてお廻りさん位有難い者はないよ。こんな寒い晩でも何でもチャント立って往来を睨んで、何でも怪しいものと・・・ 正岡子規 「煩悶」
・・・ 親父にはどんな事があってもなりっこなしにするのさ――どじょうっぴげを気にしながら小供のお守をして居る親父殿を見るとすぐ斯う思われた。何かすぐ筆の下せる様な人が通ればいいがナアと根気よくまって居たが、来るどころか皆いやな様子のものばっか・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫