・・・らと羽が輝いて、三寸、五寸、一尺、二尺、草樹の影の伸びるとともに、親雀につれて飛び習う、仔の翼は、次第に、次第に、上へ、上へ、自由に軽くなって、卯の花垣の丈を切るのが、四、五度馴れると見るうちに、崖をなぞえに、上町の樹の茂りの中へ飛んで見え・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・「なぞえに低くなった、あそこが明神坂だな。」 その右側の露路の突当りの家で。…… ――死のうとした日の朝――宗吉は、年紀上の渠の友達に、顔を剃ってもらった。……その夜、明神の境内で、アワヤ咽喉に擬したのはその剃刀であるが。(・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・浅葱に雫する花を楯に、破納屋の上路を指して、「その坂をなぞえにお上りなさいますと、――戸がしまっておりますが、二階家が見えましょう。――ね、その奥に、あの黒く茂りましたのが、虚空蔵様のお寺でございます。ちょうどその前の処が、青く明くなっ・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・そうするとまたそろそろと勇気が出て来て、家を出てから一里足らずは笛吹川の川添を上って、それから右手の嶺通りの腰をだんだんと「なぞえ」に上りきれば、そこが甲州武州の境で、それから東北へと走っている嶺を伝わって下って行けば、ついには一つの流に会・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
出典:青空文庫