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・・・洋服をきて髯など生したものはお廻りさんでなければ、救世軍のような、全く階級を異にし、また言語風俗をも異にした人たちだと思込んでいた。 わたくしは夜烏子がこの湯灌場大久保の裏長屋に潜みかくれて、交りを文壇にもまた世間にも求めず、超然として・・・
永井荷風
「深川の散歩」
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・・・医者が持たん云いさらしてさ、往生したわ。」「ふむ、それは気の毒なことやなア、長いこと見んで、私ゃもうすっかり見忘れて了うたわ。何年程になるなア?」「九年や。」「もうそんなになるかいな、幾つやな、そうすると四十?」「四十二や。・・・
横光利一
「南北」