・・・ にたにたと笑いながら、「麦こがしでは駄目だがなす。」「しかし……」「お前様、それにの、鷺はの、明神様のおつかわしめだよ、白鷺明神というだでね。」「ああ、そうか、あの向うの山のお堂だね。」「余り人の行く処でねえでね。・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・を見つけ、あらと立ちすくんでいると、向うでも気づき、えへっといった笑い顔で寄って来て、どちらへとも何とも挨拶せぬまえから、いきなり、ああ、ええとこで会うた、ちょっと金貸してくれはれしまへんかと言って、にたにた笑っているのだ。火の出る想いがし・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・ということを言いたげに呉は、安楽椅子に、ポンと落ちこんでチューインガムをしがんでいる深沢をチラと見て、にたにたと笑った。「そうだ。何もしない者、何も知らないそうだ」 田川は唸く声の間から、とぎれとぎれに繰りかえした。弾丸のあたった腰・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・を「にたにたにた」にして、「ハハハ、心配しおるな、主人は今、海の外に居るのでの。安心し居れ。今宵の始末を知らそうとて知らそう道は無い。帰って来居る時までは、おのれ等、敵の寄せぬ城に居るも同然じゃ。好きにし居れ、おのれ等。楽まば楽め。人の・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・ ふとった男はこう言って、にたにた笑いながら、いきなりぷうぷうふくれ出して、またたく間に往来一ぱいにつかえるくらいの、大きな大きな大男になって見せました。王子はびっくりして、「ほほう、これはちょうほうな男だ。どうです、きょうから私の・・・ 鈴木三重吉 「ぶくぶく長々火の目小僧」
・・・とらした小羊そっくりじゃ。さて、味はどんなもんじゃろ。冬籠りには、こいつの塩漬けが一ばんいい。」とにたにた笑いながら短刀を引き抜き、王子の白い喉にねらいをつけた瞬間、「あっ!」と婆さんは叫びました。婆さんは娘のラプンツェルに、耳を噛まれ・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ 早速それを叩いたり引っぱったりして、丁度自分の足に合うようにこしらえ直し、にたにた笑いながら足にはめ、その晩一ばん中歩きまわり、暁方になってから、ぐったり疲れて自分の家に帰りました。そして睡りました。 *・・・ 宮沢賢治 「蛙のゴム靴」
・・・ すると、男はまたよろこんで、まるで、顔じゅう口のようにして、にたにたにたにた笑って叫びました。「あのはがきはわしが書いたのだよ。」 一郎はおかしいのをこらえて、「ぜんたいあなたはなにですか。」とたずねますと、男は急にまじめ・・・ 宮沢賢治 「どんぐりと山猫」
出典:青空文庫