・・・気になって、蚊帳の中でも髣髴と蚊燻しの煙が来るから、続けてその翌晩も聞きに行って、汚い弟子が古浴衣の膝切な奴を、胸の処でだらりとした拳固の矢蔵、片手をぬい、と出し、人の顋をしゃくうような手つきで、銭を強請る、爪の黒い掌へ持っていただけの小遣・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・ と黙って聞いていた判事に強請るがごとく、「お可煩くはいらっしゃいませんか、」「悉しく聞こうよ。」 判事は倦める色もあらず、お幾はいそいそして、「ええどうぞ。条を申しませんと解りません。私どもは以前、ただ戦争のことにつき・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・ あの、仔雀が、チイチイと、ありッたけ嘴を赤く開けて、クリスマスに貰ったマントのように小羽を動かし、胸毛をふよふよと揺がせて、こう仰向いて強請ると、あいよ、と言った顔色で、チチッ、チチッと幾度もお飯粒を嘴から含めて遣る。……食べても強請・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・柱に膝を抱えて倚かかり、芽を青々と愛らしく萌え出した紫陽花の陰に、無数に並んで居る、真黒な足と下駄とを眺め乍ら、泰子は、殆ど驚歎して、彼等のお喋りや、誇示や、餓鬼大将の不快至極な、まるで大人の無頼漢が強請るような威圧を聞いたりした。 六・・・ 宮本百合子 「われらの家」
出典:青空文庫