・・・ 彼はすべての芸術も、芸術家も、現代にあっては根本の経済という観念の自覚の上に立たない以上、亡びるという持論から、私に長い説法をした。「君は何か芸術家というものを、何か特種な、経済なんてものの支配を超越した特別な世界のもののように考・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・ 彼はすべての芸術も、芸術家も、現代にあっては根本の経済という観念の自覚の上に立たない以上、亡びるという持論から、私に長い説法をした。「君は何か芸術家というものを、何か特種な、経済なんてものの支配を超越した特別な世界のもののように考・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・まるで理屈の根本が違って来たじゃないか、――やっぱりわしをかせがすつもりサ……とまで考えて来た時、老人はちょうど一本の煙草をすい切った。 石井翁は一年前に、ある官職をやめて恩給三百円をもらう身分になった。月に割って二十五円、一家は妻に二・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・まるで理屈の根本が違って来たじゃないか、――やっぱりわしをかせがすつもりサ……とまで考えて来た時、老人はちょうど一本の煙草をすい切った。 石井翁は一年前に、ある官職をやめて恩給三百円をもらう身分になった。月に割って二十五円、一家は妻に二・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・天理の自然、生命の法則に従うことは、目前の生活解放権利拡張ということより根本的である。現在の社会ではいわゆる婦人の権利拡張の闘争から手を引くことは、一層鎖を重くすることになるが、理想的国家では、処女性、母性、美容の保護、ならびに、これと矛盾・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・天理の自然、生命の法則に従うことは、目前の生活解放権利拡張ということより根本的である。現在の社会ではいわゆる婦人の権利拡張の闘争から手を引くことは、一層鎖を重くすることになるが、理想的国家では、処女性、母性、美容の保護、ならびに、これと矛盾・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・その根本の理由はよく分っている。吾々が誰れかの手先に使われて、馬鹿を見ていることはよく分っている。露西亜人に恨がある訳ではない。そういうことはよく分っているつもりだのに、日本人がやられたのを見ると、敵愾心が起って来るのをどうすることも出来な・・・ 黒島伝治 「戦争について」
・・・その根本の理由はよく分っている。吾々が誰れかの手先に使われて、馬鹿を見ていることはよく分っている。露西亜人に恨がある訳ではない。そういうことはよく分っているつもりだのに、日本人がやられたのを見ると、敵愾心が起って来るのをどうすることも出来な・・・ 黒島伝治 「戦争について」
・・・けれども彼女が根本からの治療を受けるために自分の身体を医者に診せることだけは避け避けしたのは、旦那の恥を明るみへ持出すに忍びなかったからで。見ず知らずの女達から旦那を通して伝染させられたような病毒のために、いつか自分の命の根まで噛まれる日の・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・けれども彼女が根本からの治療を受けるために自分の身体を医者に診せることだけは避け避けしたのは、旦那の恥を明るみへ持出すに忍びなかったからで。見ず知らずの女達から旦那を通して伝染させられたような病毒のために、いつか自分の命の根まで噛まれる日の・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
出典:青空文庫