・・・ほんの通りがかりの者ですけれども、お内があんまり面白そうなので、つい立ち寄らせていただきました、それでは、お邪魔させていただきます、などと言い、一面識もないあかの他人が、のこのこ部屋へはいり込んで来ることさえあった。そんな場合、さあ、さあ、・・・ 太宰治 「花燭」
・・・帰途、買い物にでもまわったのであろうと思って、僕はその不用心にもあけ放されてあった玄関からのこのこ家へはいりこんでしまった。ここで待ち伏せていてやろうと考えたのである。ふだんならば僕も、こんな乱暴な料簡は起さないのであるが、どうやら懐中の五・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・「それは、兄さんの立場として、まだまだ、ゆるすわけにはいかない。だから、それはそれとして、私の一存であなたを連れて行くのです。なに、大丈夫です。」「あぶないな。」私は気が重かった。「のこのこ出掛けて行って、玄関払いでも食わされて大きい騒・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・恩をさえ忘れた様子で、但馬のばかが、また来やがった、等とお友達におっしゃって、但馬さんも、それを、いつのまにか、ご存じになったようで、ご自分から、但馬のばかが、また来ましたよ、なんて言って笑いながら、のこのこ勝手口から、おあがりになります。・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・私たち親子三人、ゆるしも無く、のこのこ乗り込んで、――」「そんな心配は要らないでしょう。英治さんだって、あなたにすぐ来いって速達を出したそうじゃないの。」「それは、いつですか? 僕たちは見ませんでしたよ。」「おや。私たちは、また・・・ 太宰治 「故郷」
・・・というような文章があったけれども、そのしなかった悔いを噛みたくないばかりに、のこのこ佐渡まで出かけて来たというわけのものかも知れぬ。佐渡には何も無い。あるべき筈はないという事は、なんぼ愚かな私にでも、わかっていた。けれども、来て見ないうちは・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・満洲は、いま、とてもいそがしいのだから、風景などを見に、のこのこ出かけたら、きっとお邪魔だろうと思うのです。日本から、ずいぶん作家が出掛けて行きますけれど、きっと皆、邪魔がられて帰って来るのではないかと思います。ひとの大いそがしの有様を、お・・・ 太宰治 「三月三十日」
・・・誰に断って、のこのこ、ひとの庭先なんかへ、やって来たんだ、と言おうと思ったが、あんまりそれは、あさましい理窟で、言うのを止めた。「訪ねたから、それがどうしました。」商人は、私が言い澱んでいるので、つけこんで来た。「私だって、一家のあるじ・・・ 太宰治 「市井喧争」
・・・ それが、二度も罹災して、行くところが無くなり、ヨロシクタノムと電報を発し、のこのこ生家に乗り込んだ。 そうして間もなく戦いが終り、私は和服の着流しで故郷の野原を、五歳の女児を連れて歩きまわったりなど出来るようになった。 まこと・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・ほくそ笑んで、御招待まことにありがたく云々と色気たっぷりの返事を書いて、そうして翌る年の正月一日に、のこのこ出かけて行って、見事、眉間をざくりと割られる程の大恥辱を受けて帰宅した。 その日、草田の家では、ずいぶん僕を歓待してくれた。他の・・・ 太宰治 「水仙」
出典:青空文庫