・・・と題するものが収載せられていたので、之がため僕は九月二十九日の朝、突然博文館から配達証明郵便を以て、改造社全集本の配布禁止の履行と併せて、版権侵害に対する賠償金の支払を要求せられることになった。改造社の主人山本さんが僕と博文館との間に立って・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・ 戦争前、カフェー汁粉屋その他の飲食店で、広告がわりに各店で各意匠を凝したマッチを配布したことがある。これを取り集めて丁寧に画帖に貼り込んだものを見たことがあった。当時の世の中を回顧するにはよい材料である。戦後文学また娯楽雑誌が挿絵とい・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・して先ず大学の幾つかの研究室にある幾つかのX光線装置に、自分の分をも加えた目録を作り、続いてその製造者たちのところを一巡して、X光線の材料で使えるだけのものをことごとく集め、パリ地方のそれぞれの病院に配布されるように計った。教授や技師や学者・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・日本のように民間の世論調査機関が発達していず、しかも官僚統計は不備不活溌である場合、日本全土にわたる配布網、宣伝網をもつ大新聞が、比較的たやすく世論調査の便宜をそなえている。 日本では大新聞が世論調査の便宜をもっているということに、小さ・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・国立出版所は、新刊書の配布網についてもっと研究するべきだ。そういうことは書いて来る。しかし、村の人々はどういう小説を読みたがっているか、またどの小説に対してどういう風に大衆的に批評したかというような綜合的な報告は概してすくない。自分は何々を・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・古来、本当に人間の肺腑にふれた文学作品で、ただの持ち味だとか主観的な境地だとかをよりどころとしてかがまっていた作品は一つだって無いことを、誰しも読んで感じて来ているのである。それらの人々は、作家の現実にとび込んで描くと威勢よく云っても、只所・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・第二次大戦中の十月記念日に、メーデーに、スターリンがおくった激励の挨拶の、あの人間らしい暖かい具体性、肺腑にしみ入って人々にソヴェト市民たる価値と歓喜とを自覚させるあの雄勁なリズムは、ソヴェト市民が、誇りとするにたりない詩であるだろうか。雄・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・の内省と苦悩とが真に読者の肺腑をつく態の真摯な人間的情熱を欠いているところに、この作品の稀薄さが在るのである。 人道主義的なセンチメンタリズムを蹴たおして、仮借なく現実を踏み越えて生きようとする気組も、作品として十分の落付いた肉づけ、客・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・そして、読者の肺腑を貫いたであろう。 私たちにこれだけの思いを抱かせるのも、つまりは帝と中宮の絆が、軽薄な当時の常識から溢れ出ているからではないだろうか。権勢につき、それに媚びて情愛を移らせることが怪しまれなかったその頃の殿上の気風のま・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
・・・ブルジョア・地主の政府が資本主義経済の行きづまりから死物狂いにファッショ化して来ている現在の日本で、プロレタリアの唯一の文化的武器である、プロレタリア出版物を支持し、その配布組織を敵から守って拡大強化してゆくことはわれわれに課せられて決して・・・ 宮本百合子 「「我らの誌上相談」」
出典:青空文庫