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・・・ 枝々に白く雪の凍った並木道の間を電車が走ってくるが、チラチラとアーク燈のつよい光りをあびるごとに、風にはためく赤旗が、美しく目立つ。「労働宮」のわきを電車がまわるとき、ニーナはなんとも云えないよろこびで、三月八日と大きく輝いている・・・
宮本百合子
「ソヴェト同盟の三月八日」
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・・・ 風が吹き、物影がはためくので一層沈んで見える山崎の大飾窓の処に人だかりがある。私は、「何でしょう、病人?」と怪しみながら通りがかりに振向いて見た。思いがけず人の間から、見覚えのある紅い婦人帽が覗いている。私は立ち止った。よく見・・・
宮本百合子
「粗末な花束」