・・・ではカメラがつつましい洋服屋さんの仕事台のまわりや、さっぱりと掃ききよめて淋しいほど何もない母さんの家の座敷まで歩くのであるが、その家庭の姿の語りかたにそのカメラそのもののはにかみのようなものが感じられて、様々の感想にうたれた。たとえば洋服・・・ 宮本百合子 「「保姆」の印象」
・・・ うめは、祖母の横に坐り、上眼づかいで伯母を見上げながら、にっとはにかみ笑いをした。おかっぱで、元禄の被布を着て、うめは器量の悪い娘ではなかったが、誰からも本当に可愛がられることのない娘であった。蒼白い顔色や、変にませた言葉づかいが、育・・・ 宮本百合子 「街」
・・・やら「物静かなはにかみ」やらを匂わせることが出来ましたのでございましょう。そしてそれをお聞きになったあなたもその声の中から、わたくしがあなたと御一しょでいい心持がいたしていると云うことやら、わたくしがあなたを少しこわがっていると云うことやら・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
出典:青空文庫