・・・それだし、この土地では、まだ半季勘定がございます。……でなくってもさ、当寺へお参りをする時、ゆきかえり通るんですもの。あの提灯屋さん、母に手を曳かれた時分から馴染です。……いやね、そんな空お世辞をいって、沢山。……おじさんお参りをするのに極・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・令畏まると立つ女と入れかわりて今日は黒出の着服にひとしお器量優りのする小春があなたよくと末半分は消えて行く片靨俊雄はぞッと可愛げ立ちてそれから二度三度と馴染めば馴染むほど小春がなつかしく魂いいつとなく叛旗を翻えしみかえる限りあれも小春これも・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・ そのほかロシヤでも、よゆうの少い沿海州の市民たちでさえも、全力をあげて日本を救えとさけび、フランス、イタリー、メキシコ、オーストラリヤでは、日をきめて興行物一さいをさしひかえ各戸に半旗を上げて、日本の不幸に同情を表し、義えん金を集めま・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・これ老生の近辺に住む老画伯にして、三十年続けて官展に油画を搬入し、三十年続けて落選し、しかもその官展に反旗をひるがえす程の意気もなく、鞠躬如として審査の諸先生に松蕈などを贈るとかの噂も有之、その甲斐もなく三十年連続の落選という何の取りどころ・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・それをどう斯う云うのは恩恵深き自然に対して正しく叛旗をひるがえすものである。よしたまえ、ビジテリアン諸君、あんまり陰気なおまけに子供くさい考は。」「ふん。今度のパンフレットはどれもかなりしっかりしてるね。いかにも誰もやりそうな議論だ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・をもっていながら、今年の前四分の一半期には一冊も新しい本を買わなかった。国立出版所は、新刊書の配布網についてもっと研究するべきだ。そういうことは書いて来る。しかし、村の人々はどういう小説を読みたがっているか、またどの小説に対してどういう風に・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・皮肉なことは、戦後派とよばれた近代文学同人たちの大部分が、前年の下半期から一九四九年をとおして、インテリゲンチャとしてそれぞれに着目すべき社会的文学的前進を行っていたことである。個人主義の開花時代の近代ヨーロッパの文学精神を、日本で窒息させ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 一九三一年の後半期、張作霖を爆死させて満州への侵略がはじまってから一九四五年八月十五日まで、日本の人民生活の物も心もぼろぼろになり果るまで、わたしたちは十四年間の戦争にさらされた。戦争は現代の資本主義の国々が互にもっている利害の矛盾や・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・この半年に青少年の犯罪は一万を突破して昨年後半期より二千百二十六名の増加であり、筆頭が竊盗。そして、職業別にみると、有職者が六千数百人で第一位をなし、二十二歳が最高の率を示している。 春ごろ、青少年労働者が浪費と悪所遊びに陥る傾向につい・・・ 宮本百合子 「私の感想」
出典:青空文庫