・・・ 福沢諭吉は勿論のこと、東海散士、末広鉄腸、川島忠之助、馬場辰猪等にしろ、自身と専門的な作家、小説家の生活とを結びつけることなど夢想さえしなかったに違いない。川島忠之助は正金銀行の支配人として活躍したし、東海散士、柴四朗は農商務次官、代・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・おばあ様とは、桂屋にいる五人の子供がいつもいい物をおみやげに持って来てくれる祖母に名づけた名で、それを主人も呼び、女房も呼ぶようになったのである。 おばあ様を慕って、おばあ様にあまえ、おばあ様にねだる孫が、桂屋に五人いる。その四人は、お・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・なんだか六十ぐらいになった爺いさん婆あさんのようじゃありませんか。一体百年も逢わないようだと初めに云っておいて、また古い話をするなんとおっしゃるのが妙ですね。貴夫人。なぜ。男。なぜって妙ですよ。女の方が何かをひどく古い事のように言う・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
・・・「こんなしぶったれ婆と、誰が喧嘩するか。」と秋三は笑って見せた。「お前、黙っていやいて云うのにな!」「こいつ、どうしたらええ奴やろ!」とお霜は秋三を睥んで云った。「姉やん見やいせ。良え光沢やろが。汚点が惜しいことにちょっと附・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫