・・・それはそのお月さまの船の尖った右のへさきから、まるで花火のように美しい紫いろのけむりのようなものが、ばりばりばりと噴き出たからです。けむりは見る間にたなびいて、お月さまの下すっかり山の上に目もさめるような紫の雲をつくりました。その雲の上に、・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・ 私のえがいているもの――そうですね、私は慾張りの方ですから、随分いろいろな慾望がありますけれど、日常の生活でいえば、さしあたり静かなところへ旅行したいと思っています。同じ旅行でも関西方面より北の方がいいと思います。大阪、京都などのよう・・・ 宮本百合子 「愛と平和を理想とする人間生活」
・・・「飯炊くとき、おねばりとってやんな」 その次の日又重湯を運んでやり、歩けるようになる迄、粥をやるのがいしの任務であった。仙二は、苦笑しながら半分冗談、半分本気で云った。「あげえ業の深けえ婆、世話でも仕ずに死なしたら、忘れっこねえ・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・台所から来るか、二階から来るか、勇敢にばりりと雨戸を引破るか、知れたものではない。来るか来ないか分らないものを十中九分の九まで来ないとさえ知れながら――私は馬鹿女だ! しかし、村でも到頭人殺しが出るようになったか。こそこそ泥棒も滅多には・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・海に、面して眺望絶佳なところに床まで大理石ばりの壮大な離宮がある。それが今は農民のための療養所で、集団農場から休養にやって来ている連中が、楽しそうに芝生の上にころがって海の風に当っていた。 農村のために映画館を二万五千にふやしラジオは十・・・ 宮本百合子 「今にわれらも」
・・・こまかいさまざまの辛苦が、大町さんの誠実な人柄のうちにうけいれられ、こなされ、選択され、方向をととのえ、明日の日本のよりよい生活の建設のために献身する女性として、十分の厚みと、暖かさと、がんばりとなって来ている。人柄のよさというなかに、大町・・・ 宮本百合子 「大町米子さんのこと」
・・・と個人のがんばりでりきむだけでは、未来の大人である子供の生活にあかるいみとおしを与えることはできにくくなるばかりです。 母と子も「どうせ、うちなんか、金もないんだから」とあきらめてかかる習慣を、どういう場合にも、つけないことが大切です。・・・ 宮本百合子 「親子いっしょに」
・・・たとえば「後家のがんばり」というこの小説の世界にとって重要なモメントとなっている女性の生活闘争の傷痕の問題や、プロレタリア前衛党が再結集されてゆく過程及びその階級活動全般における各種の専門活動の関係とその評価についての問題。日本の監獄が治安・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・ ×手ばなしでなぐられる金しばりの中で頑固に自らを試煉する。 これらの作品は、非常に複雑で熱い意欲をたくみに圧縮しつつ心を打つ力をもっていると思われますし、別な例では、ようやく終った所長の訓示・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
・・・葭簀ばりの入口に、台があって、角力の出方のように派手なたっつけ袴、大紋つきの男が、サーいらっしゃい! いらっしゃい! 当方は名代の三段がえし、旅順口はステッセル将軍と乃木大将と会見の場、サア只今! 只今! せり上り活人形大喝采一の谷はふたば・・・ 宮本百合子 「菊人形」
出典:青空文庫