・・・うろこぐもはみんな、もう月のひかりがはらわたの底までもしみとおってよろよろするというふうでした。その雲のすきまからときどき冷たい星がぴっかりぴっかり顔をだしました。 恭一はすたすたあるいて、もう向うに停車場のあかりがきれいに見えるとこま・・・ 宮沢賢治 「月夜のでんしんばしら」
・・・ はちすずめがたびたび宝石に打たれて落ちそうになりながら、やはりせわしくせわしく飛びめぐって、ザッザザ、ザザァザ、ザザァザザザァ、降らばふれふれひでりあめひかりの雲のたえぬまま。 と歌いましたので雨の音は・・・ 宮沢賢治 「虹の絵具皿」
・・・「まひるの草木と石土を 照らさんことを怠りし 赤きひかりは集い来てなすすべしらに漂えよ。」 するとほんとうにそこらのもう浅黄いろになった空気のなかに見えるか見えないような赤い光がかすかな波になってゆれました。ひなげしどもはじぶんこそ・・・ 宮沢賢治 「ひのきとひなげし」
・・・「お日さまの、 お通りみちを はき浄め、 ひかりをちらせ あまの白雲。 お日さまの、 お通りみちの 石かけを 深くうずめよ、あまの青雲。」 そしてもういつか空の泉に来ました。 この泉は霽れた晩には、下・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・ さて大学生諸君、その晩空はよく晴れて、金牛宮もきらめき出し、二十四日の銀の角、つめたく光る弦月が、青じろい水銀のひかりを、そこらの雲にそそぎかけ、そのつめたい白い雪の中、戦場の墓地のように積みあげられた雪の底に、豚はきれいに洗われて、・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・ら十人ばかり大きなシャベルを持ったりきらきらするフォークをかついだりして出て来て「おキレの角はカンカンカン ばけもの麦はベランべランベラン ひばり、チッチクチッチクチー フォークのひかりはサンサンサン。」とばけも・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・さっきの青いのは可成大きなはんの木でしたが、その梢からはたくさんのモールが張られてその葉まできらきらひかりながらゆれていました。その上にはいろいろな蝶や蛾が列になってぐるぐるぐるぐる輪をかいていたのです。 うつくしい夏のそらには銀河がい・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・すべてまことのひかりのなかに、いっしょにすんでいっしょにすすむ人人は、いつでもいっしょにいるのです。けれども、わたくしは、もう帰らなければなりません。お日様があまり遠くなりました。もずが飛び立ちます。では。ごきげんよう。」 停車場の方で・・・ 宮沢賢治 「マリヴロンと少女」
・・・ほの白い原稿紙午後五時のひかり暫く その意味深い空虚のままに居れ。やがて お前等は繰れど、繰れどつきぬ 人類の喜怒に愕き 畏れて 静かなケイを震わせる時が来るだろう。 八月三十日不図 軌道を・・・ 宮本百合子 「初夏(一九二二年)」
・・・ あらたふと青葉若葉の日のひかり 北方の五月は黄昏がながい。もう太陽は河の彼方に沈んだ。燦めきのない残光が空中にあって、空を建物を人物の色彩を不思議に鮮かに浮きたたせる。市街は、オランダの陶器絵のように愛らしく美しい。ねっと・・・ 宮本百合子 「わが五月」
出典:青空文庫