・・・ 多恨の詩人肌から亡朝の末路に薤露の悲歌を手向けたろうが、ツァールの悲惨な運命を哀哭するには余りに深くロマーノフの罪悪史を知り過ぎていた。が、同時に入露以前から二、三の露国革命党員とも交際して渠らの苦辛や心事に相応の理解を持っていても、双手・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・ところが一昨日から続けざまにいろんな注射をして来たので、到る所の皮下に注射液の固い層が出来て、針が通らない。思い切って入れようとすると、針が折れそうに曲ってしまう。注射で痛めつけて来たその腕が、ふと不憫になるくらいだった。 新吉は左の腕・・・ 織田作之助 「郷愁」
・・・そこいらの漁師の神さんが鮪を料理するよりも鮮やかな手ぶりで一匹の海豹を解きほごすのであるが、その場面の中でこの動物の皮下に蓄積された真白な脂肪の厚い層を掻き取りかき落すところを見ていた時、この民族の生活のいかに乏しいものであるかということ、・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・のずからその弊害を見るべきもまた、まぬかるべからざるの数なり。たとえば薬品にて「モルヒネ」は劇剤にして、肝油・鉄剤は尋常の強壮滋潤薬なり。劇痛の患者を救わんとするには「モルヒネ」の皮下注射方もっとも適当にして、医師も常にこの方に依頼して一時・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・看護婦は皮下だけです。お風呂は石炭不足で一週に一度、しかも私はやっと、この頃たつ度に入るようになったばかしです。私の風呂好きがこの有様よ。シュトルムはおっしゃるとおりですから、ヘッセをみつけたいと思います。他に何があるか調べましょう。・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・万葉の芸術には、高貴な方の作品もあり、奴隷的な防人の悲歌もある。万葉の時代は、日本の民族形成の過程であり、奴隷経済の時代であり物々交換時代であり、現実に今日私たちの生きる社会の機構とくらぶべくもない。万葉の精神を唱える作家自らがそれを抽象的・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
出典:青空文庫