・・・ 正義のために殉じ、真理のために、一身を捧ぐることは、もとより、人類の向上にとって、最も貴ぶべく、また正しいことです。しかし、戦争が果して、それであると言い得られるでありましょうか? 少年を持つ親として、このことに考え至る者は、私一・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・だから仏教には昔から合い難き師に合うとか、享け難き人身を享けてとか、百千万劫難遭遇の法を聴くとかいってこのかりそめならぬ縁の契機を重んじるのである。人と人との接触というものは軽くおろそかに扱えばそれまでの偶然事で深い気持などは起こるものでは・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・政元の魔法は成就したか否か知らず、永い月日を倦まず怠らずに、今日も如法に本尊を安置し、法壇を厳飾し、先ず一身の垢を去り穢を除かんとして浴室に入った。三業純浄は何の修法にも通有の事である。今は言葉をも発せず、言わんともせず、意を動かしもせず、・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・曰く、「京管領細川右京太夫政元は四十歳の比まで女人禁制にて、魔法飯綱の法愛宕の法を行ひ、さながら出家の如く、山伏の如し、或時は経を読み、陀羅尼をへんしければ、見る人身の毛もよだちける。されば御家相続の子無くして、御内、外様の面、色諫め申しけ・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・窪田さんや条理の分った山崎のお母さんたちが、一生ケン命に、だまされるどころか、丁度その反対で、上田や大川たちの搾取の生活を解放するために、伊藤や山崎などが先頭に立って、一身を犠牲にしてやっているのだと云ってきかせても、一向にきゝ入れないのだ・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・AMADEUS HOFFMANN 路易第十四世の寵愛が、メントノン公爵夫人の一身に萃まって世人の目を驚かした頃、宮中に出入をする年寄った女学士にマドレエヌ・ド・スキュデリイと云う人があった。「労働」KARL SCHOENHERR・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・私の解放運動など、先覚者として一身の名誉のためのものと言って言えないこともなく、そのほうで、どんどん出世しているうちは、面白く、張り合いもございましたが、スパイ説など出て来たんでは、遠からず失脚ですし、とにかく、いやでした。 ――女は、・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・そんなことから、彼はクラスの寵を一身にあつめた。わかい群集は英雄の出現に敏感である。ブルウル氏は、それからも生徒へつぎつぎとよい課題を試みた。Fact and Truth. The Ainu. A Walk in the Hills in ・・・ 太宰治 「猿面冠者」
・・・ その他、到れり尽せりの人身攻撃を受けたようである。 今官一君が、いま、パウロの事を書いているのを知り、私も一夜、手垢の附いた聖書を取り出して、パウロの書簡を読み、なぜだか、しきりに今官一君に声援を送りたくなった次第である。・・・ 太宰治 「パウロの混乱」
・・・中に物理学者と名のつく人も一人居て、これはさすがに直接の人身攻撃はやらないで相対原理の批判のような事を述べたが、それはほとんど科学的には無価値なものであった。要するにこの演説会は純粋な悪感情の表現に終ってしまった。気の永いアインシュタインも・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
出典:青空文庫