・・・ 戸を開けて外に出ると事務所のボンボン時計が六時を打った。びゅうびゅうと風は吹き募っていた。赤坊の泣くのに困じ果てて妻はぽつりと淋しそうに玉蜀黍殻の雪囲いの影に立っていた。 足場が悪いから気を付けろといいながら彼の男は先きに立って国・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ 今日はいよいよ退院するという日は、霰の降る、寒い風のびゅうびゅうと吹く悪い日だったから、私は思い止らせようとして、仕事をすますとすぐ病院に行ってみた。然し病室はからっぽで、例の婆さんが、貰ったものやら、座蒲団やら、茶器やらを部屋の隅で・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
・・・どどんとすさまじい音をたてて、まるつぶれにたおれて、ぐるり一ぱいにもうもうと土烟が立ち上る、附近の空地へにげようとしてかけ出したものの、地面がぐらぐらうごくので足がはこばれない、そこへ、あたり一面からびゅうびゅう木材や瓦がとびちって来るので・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・と言うが早いか、何千人という大人数が、一どに馬にとびのって、大風のように、びゅうびゅうかけだしました。 王子たちは王女の手を引いて、遠くまでにげて来ました。するとやがて後の方で、ぽか/\/\と大そうなひづめの音が聞え出しました。王子は走・・・ 鈴木三重吉 「ぶくぶく長々火の目小僧」
一 むかし、アメリカの或小さな町に、人のいい、はたらきものの肉屋がいました。冬の半の或寒い朝のことでした。外は、ひどい風が雨を横なぐりにふきつけて、びゅうびゅうあれつづけています。人々は、こうもりのえに・・・ 鈴木三重吉 「やどなし犬」
出典:青空文庫