・・・が、姉がこう泣き声を張り上げると、彼は黙って畳の上の花簪を掴むが早いか、びりびりその花びらをむしり始めた。「何をするのよ。慎ちゃん。」 姉はほとんど気違いのように、彼の手もとへむしゃぶりついた。「こんな簪なんぞ入らないって云った・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・閉込んだ硝子窓がびりびりと鳴って、青空へ灰汁を湛えて、上から揺って沸立たせるような凄まじい風が吹く。 その窓を見向いた片頬に、颯と砂埃を捲く影がさして、雑所は眉を顰めた。「この風が、……何か、風……が烈しいから火の用心か。」 と・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・(興奮しつつ、びりびりと傘を破く。ために、疵つき、指さき腕など血汐浸――畜生――畜生――畜生――畜生――人形使 ううむ、(幽に呻ううむ、そうだ、そこだ。ちっと、へい、応えるぞ。ううむ、そうだ。まだだまだだ。夫人 これでもかい。これで・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・その振動が手の指先に響いてびりびりとしびれるように感じられた。 研究室へ帰って新着の雑誌を読んで行くと「音の触感」に関する研究の報告がある。蓄音機のレコードの発する音響をすっかり殺してしまって、その上に耳を完全にふさいで、ただ指先の触感・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・うとする動きがあるけれども、それには治安維持法という大きな恐しい影がつきまとっていて、その治安維持法への拒否が自分のあり方を歴史の上で生かそうとした多喜二的身がまえになっているので、この治安維持法へのびりびりした恐怖の根性を引出して日に干し・・・ 宮本百合子 「批評は解放の組織者である」
出典:青空文庫