・・・五月二日、モスクワじゅうの数万人の労働者が、昼間はのんびり散歩して、夜は芝居を観る。これは、小さなことか? ――……あんまり感動させてくれるなよ。――ふだんは、どんなんだろう。いつも労働者の見物で芝居は一杯かい? ――劇場によるな。・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ 疎な髯のある肉のブテブテした顔が、ポーッと赤くなり、東北音の東京弁で静かに話す様子は、巡査と云う音を聞いた丈で、子供の時分から私共の頭にこびり付いて居る、「何ちゅうか、あ――んとそり返る概念を快く破ってくれた。 私・・・ 宮本百合子 「盗難」
・・・ ちょんびりな髪をお下げに結んで、重みでぬけて行きそうなリボンなどをかけて、大きな袂の小ざっぱりとしたのを着せられて居る。 あんまりパキパキした子ではないけれ共小憎らしいと云う様なところの一寸もない子であった。 兄達が毬投げなん・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・ ちょんびりも死にたくなんかない。 私はしたい事が、山ほどある。 私の行末は、明るくて嬉しい事ずくめである。 こんな事は、勿論、まるで雲をつかむ様な空想ではあるが、これから先、いいにしろ、悪いにしろ、どうせぶつかって見なけれ・・・ 宮本百合子 「熱」
・・・ 私は、ちょんびりも、そう云う気持は持って居なかったけれ共、彼等が生れるとから、両親が町の地主にいじめられ、いろいろの体の好い「罠」に掛けられた事を小さいながら知り、それ等の憎むべき敵は皆自分達より良い着物を着、好い食物をたべて、自分達・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ もとより生活の苦しみなんかをチョンびりも知らない私が生活の波にさからっておぼれまいおぼれまいとして居る人達の心はそんなにはっきりとは分らない。 でも幾分かは分る。知っても居る。 生活の困難な世の中ではなるたけらくで人のうけもい・・・ 宮本百合子 「無題(二)」
・・・しかし、私たち日本の女は、夫の戦死されたあと、ママという通称をもった街の女がいて、三人の子供をどこかにのこしたまま、くびり殺されたことを忘れてはならない。今日の日本では子持の街の女も、かなりの高率であるにちがいない。 結婚と、その分離で・・・ 宮本百合子 「離婚について」
出典:青空文庫