・・・ドイツ映画には数理的科学とビールのにおいがあり、フランス映画にはエスカルゴーやグルヌイーユの味が伴なう。ロシア映画のスクリーンのかなたにはいつでも茫漠たるシベリアの野の幻がつきまとっている。さて日本の映画はどうであろう。数年前の統計によると・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・吾妻橋を渡ると久しく麦酒製造会社の庭園になっていた旧佐竹氏の浩養園がある。しかしこの名園は災禍の未だ起らざる以前既に荒廃して殆その跡を留めていなかった。枕橋のほとりなる水戸家の林泉は焦土と化した後、一時土砂石材の置場になっていたが、今や日な・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・給仕に出た女が、招魂祭でどこの宿屋でもこみ合っているとか、町ではいろいろの催しがあるとか、佐野さんも今晩はきっとどこかへお呼ばれなすったんでしょうとか言うのを聞きながら、ビールを一、二はいのんだ。下女は重吉のことをおとなしいよいかただと言っ・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・給仕に出た女が、招魂祭でどこの宿屋でもこみ合っているとか、町ではいろいろの催しがあるとか、佐野さんも今晩はきっとどこかへお呼ばれなすったんでしょうとか言うのを聞きながら、ビールを一、二はいのんだ。下女は重吉のことをおとなしいよいかただと言っ・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・君ビールを飲むか」「飲んでもいい」と圭さんは泰然たる返事をした。「飲んでもいいか、それじゃ飲まなくってもいいんだ。――よすかね」「よさなくっても好い。ともかくも少し飲もう」「ともかくもか、ハハハ。君ほど、ともかくもの好きな男・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・君ビールを飲むか」「飲んでもいい」と圭さんは泰然たる返事をした。「飲んでもいいか、それじゃ飲まなくってもいいんだ。――よすかね」「よさなくっても好い。ともかくも少し飲もう」「ともかくもか、ハハハ。君ほど、ともかくもの好きな男・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・それが、ビール箱の蓋か何かに支えられて、立っているように見えた。その蓋から一方へ向けてそれで蔽い切れない部分が二三尺はみ出しているようであった。だが、どうもハッキリ分らなかった。何しろ可成り距離はあるんだし、暗くはあるし、けれども私は体中の・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・それが、ビール箱の蓋か何かに支えられて、立っているように見えた。その蓋から一方へ向けてそれで蔽い切れない部分が二三尺はみ出しているようであった。だが、どうもハッキリ分らなかった。何しろ可成り距離はあるんだし、暗くはあるし、けれども私は体中の・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・ その時はもう、彼の顔は無髭になっていた。 彼は、座席へバスケットを置くと、そのまま食堂車に入った。 ビールを飲みながら、懐から新聞紙を出して読み始めた。新聞紙は、五六種あった。彼は、その五つ六つの新聞から一つの記事を拾い出した・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・津軽海峡、トラピスト、函館、五稜郭、えぞ富士、白樺、小樽、札幌の大学、麦酒会社、博物館、デンマーク人の農場、苫小牧、白老のアイヌ部落、室蘭、ああ僕は数えただけで胸が踊る。五時間目には菊池先生がうちへ宛てた手紙を渡して、またいろいろ話され・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
出典:青空文庫