・・・寡婦は仕事に身を入れているのでそれには気がつかず、やがて御飯時にしたくをしようと立ち上がった時、ぴかぴか光る金の延べ板を見つけ出した時の喜びはどんなでしたろう、神様のおめぐみをありがたくおしいただいてその晩は身になる御飯をいたしたのみでなく・・・ 有島武郎 「燕と王子」
・・・をして、本の包みを枕もとにおいて、帽子のぴかぴか光る庇をつまんで寝たことだけはちゃんと覚えているのですが、それがどこへか見えなくなったのです。 眼をさましたら本の包はちゃんと枕もとにありましたけれども、帽子はありませんでした。僕は驚いて・・・ 有島武郎 「僕の帽子のお話」
・・・ところがさ、商売柄、ぴかぴかきらきらで、廓の張店を硝子張の、竜宮づくりで輝かそうていったのが、むかし六郷様の裏門へぶつかったほど、一棟、真暗じゃありませんか。拍子抜とも、間抜けとも。……お前さん、近所で聞くとね、これが何と……いかに業体とは・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ 同時に、雨がまた迫るように、窓の黒さが風に動いて、装り上ったように見透かさるる市街に、暮早き電燈の影があかく立って、銅の鍋は一つ一つ、稲妻に似てぴかぴかと光った。 足許も定まらない。土間の皺が裂けるかと思う時、ひいても離れなかった・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・「白粉や香水も売っていて、鑵詰だの、石鹸箱はぴかぴかするけど、じめじめとした、陰気な、あれかあね。」「全くだ、陰気な内だ。」 と言って客は考えた。「それは、旦那さん――あ、あ、あ、何屋とか言ったがね、忘れたよ。口まで出るけど・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・大きな台の上で、男が、三人も並んで、ぴかぴか光る庖丁で鶏の肉を裂き、骨をたたき折っていました。真っ赤な血が、台の上に流れていました。その台の下には、かごの中で他の鶏が餌を食べて遊んでいました。 鳥屋の前に、二人の学生が立って、ちょっとそ・・・ 小川未明 「あらしの前の木と鳥の会話」
・・・そして、星の光が、ぴかぴかと、いまにも飛びそうに空に光っていました。少女は、じっと、星の光をながめて、ふるさとを思い出していたのであります。 春になりました。海の上は穏やかに、山には、木々の花が咲いて、野原には、緑色の草が芽ぐみました。・・・ 小川未明 「海からきた使い」
・・・そして、ぴかぴか光る目で、じっとちょうを見つめていました。この有り様を知ると花は、急に小さな心臓がとどろきました。しかし、ちょうは、ちっともそのことを知りませんでした。「ちょうさん、あなたのきれいな羽をお気をつけなさい。細い糸にかかりま・・・ 小川未明 「くもと草」
・・・ お姉ちゃん、僕にぴかぴかした、シャープ=ペンシルを買ってきてくれる?」と、良ちゃんは、急に元気になりました。「ええ、きっと、光った、いいのを買ってきますよ。お姉さんは、お約束をして、うそをいったことがないでしょう?」「うん。」と、・・・ 小川未明 「小さな弟、良ちゃん」
・・・ その時分にはこんな黒い色でなく、ぴかぴか光っていました。そして刃もよくついていてうっかりすると、指さきを切ったのであります。「よく気をつけて、おつかいなさい。おててを切りますよ。」と、お母さんが、よく、ご注意なさったのでした。・・・ 小川未明 「古いはさみ」
出典:青空文庫