・・・暑さにもめげずにぴんぴんしたものだ。黒茶にレモン一片入れて飲め無えじゃ、人間って名は附けられ無えかも知れ無えや。 昨夕もよ、空腹を抱えて対岸のアレシキに行って見るとダビドカの野郎に遇った。懐をあたるとあるから貸せと云ったら渋ってけっかる・・・ 有島武郎 「かんかん虫」
・・・余り駈けたので、体中の脈がぴんぴん打っている。そして耳には異様な囁きが聞える。「今血が出てしまって死ぬるのだ」というようである。 こんな事を考えている内に、女房は段々に、しかもよほど手間取って、落ち着いて来た。それと同時に草原を物狂わし・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・それで表面はぴんぴんしている。そのうち、戯曲も書こうと思う。最近、友人が「君は本職をもう捨てたのか」といった。小説は私の副職だというのである。「いや、今に戯曲も書くよ」と答えたが、その実、素人劇の脚本を昨年頼まれて書き演出もした。満更でもな・・・ 織田作之助 「わが文学修業」
・・・ 彼等の細くって長い脚は、強いバネのように、勢いよくぴんぴん雪を蹴って、丘を登っていた。「ナーシヤ!」「リーザ!」 武石と吉永とが呼んだ。「なアに?」 丘の上から答えた。 子供達は、皆な、一時に立止まって、谷間の・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・せつは、畳の上をぴんぴんはねまわって、母の膝下へざれつきに行った。与助は、にこにこしながらそれを見ていた。「そんなにすな、うるさい。」まだその時は妊娠中だった妻は、けだるそうにして、子供たちをうるさがった。 暫らくたって、主人は・・・ 黒島伝治 「砂糖泥棒」
・・・私は自分の年とったことも忘れて、あの母さんがきょうまでぴんぴんしているとしたら、もうそんな婆さんか、と想ってみた。 母さんの旧い友だちが十七年ぶりで私たちの家へ訪ねて来たというは、次郎に取っても心の驚きであったらしい。次郎は今さらのよう・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・余り駆けたので、体中の脈がぴんぴん打っている。そして耳には異様な囁きが聞える。「今血が出てしまって死ぬるのだ」と云うようである。 こんな事を考えている内に、女房は段段に、しかも余程手間取って、落ち着いて来た。それと同時に草原を物狂わしく・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・御互のように命については極めて執着の多い、奇麗でない、思い切りのわるい連中が、こうしてぴんぴんしているような訳かも知れません。これでも多少の説明にはなります。しかしもっと進んでこの傾向の大原因を極めようとすると駄目であります。万法一に帰す、・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
今は兎たちは、みんなみじかい茶色の着物です。 野原の草はきらきら光り、あちこちの樺の木は白い花をつけました。 実に野原はいいにおいでいっぱいです。 子兎のホモイは、悦んでぴんぴん踊りながら申しました。 「ふん、いいにお・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・ああ、ただも一度二本の足でぴんぴん歩いてあの楽地の中の泉まで行きあの冷たい水を両手で掬って呑むことができたらそのまま死んでもかまわないと斯う思うだろう。またお前の答えたように人は物を言わないでいられない。 考えたことをみんな言わないでい・・・ 宮沢賢治 「学者アラムハラドの見た着物」
出典:青空文庫