・・・取り留めのなさは、ちぎれ雲が大空から影を落としたか、と視められ、ぬぺりとして、ふうわり軽い。全体が薄樺で、黄色い斑がむらむらして、流れのままに出たり、消えたり、結んだり、解けたり、どんよりと濁肉の、半ば、水なりに透き通るのは、是なん、別のも・・・ 泉鏡花 「海の使者」
・・・同じ燻ぶった洋燈も、人の目鼻立ち、眉も、青、赤、鼠色の地の敷物ながら、さながら鶏卵の裡のように、渾沌として、ふうわり街燈の薄い影に映る。が、枯れた柳の細い枝は、幹に行燈を点けられたより、かえってこの中に、処々すっきりと、星に蒼く、風に白い。・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・ 或日ギンが、湖水のそばへ牛をつれていって、草を食べさせていますと、じきそばの水の中に、若い女の人が一人、ふうわりと立って、金の櫛で、しずかに髪をすいていました。下にはその顔が鏡にうつしたように、くっきりと水にうつッていました。それはそ・・・ 鈴木三重吉 「湖水の女」
出典:青空文庫