・・・父と私との実に充実した情愛を包む各瞬間をして益光彩あり透明不壊であるように生きましょう。私は父との永訣によって心に与えられた悲しみを貫く歓喜の響の複雑さ、美しさに就て、文字で書きつくされないものを感じて居ります。其は音楽です。パセティークな・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・……けれども、あの、蝎の毒でも死ぬように果敢ない肉体を持ちながら、精神ばかりは高貴な、不壊な者たちをどうして痛おしまずに居られよう。私には母の本能がある。自分の最初の形代人間が、渾沌から渾沌に亙る雄大な認識と、音楽のように豊かな複雑な感情を・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・は得られないのであるが、ひとたび大将がこの明を得れば、彼の率いる武士団は、強剛不壊のものになってくる。ということは、道義的性格の尊重が彼の武士団を支配するということなのである。この書のねらっている武士の理想は、道徳的にすぐれた人物となるとい・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫