・・・ お雪の病気を復すにも怪しいものを退治るにも、耆婆扁鵲に及ばず、宮本武蔵、岩見重太郎にも及ばず、ただ篠田の心一つであると悟りましたので、まだ、二日三日も居て介抱もしてやりたかったのではありますけれども、小宮山は自分の力では及ばない事を知・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・未成年者として服すべき義務、受けるべき練成が、その対象としてあらわれていると思う。 家庭の中で、たとえて云えば妹が冗談に、あら、お兄さん、いいの? かけて――学生のくせに、と椅子の不足しているとき兄を睨む気軽さ愛らしさは、そのものとして・・・ 宮本百合子 「家庭と学生」
・・・妨害を行った二人の被告が、検事から「罰として労役に服すか、ヴォルテールの言葉を一人は五百遍、一人は三百遍書きうつすか」ときかれて、ヴォルテールの言葉を写す方を選んだエピソードも生れた。彼等が幾百ぺんかかきうつしたヴォルテールの言葉というのは・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・和女はよも忘れはせまい、和女には実の親、おれには実の夫のあの民部の刀禰がこたび二の君の軍に加わッて、あッぱれ世を元弘の昔に復す忠義の中に入ろうとて、世良田の刀禰もろとも門出した時、おれは、こや忍藻、おれは何して何言うたぞ。おれが手ずから本磨・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫