・・・「おふざけでないよ、寝ているかとおもえば眼が覚めていて、出しぬけに床ん中からお酒を買えたあ何の事たえ。そして何時だと思っておいでだ、もう九時だよ、日があたってるのに寝ているものがあるもんかね。チョッ不景気な、病人くさいよ、眼がさめたら飛・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・然し、そうでない時、俺たちは誰よりも一番燥ゃいで、元気で、ふざけたりするのだ。 十日、七日、五日……。だん/\日が減って行った。そうだ、丁度あと三日という日の午後、夕立がやってきた。「干物! 干物!」 となりの家の中では、バタ/・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・とうさんがふざけて言ったんだよ。そんなことは、どうでもいいじゃないか。どんなものを造り出そうと、お前たちの勝手だからね。」 画布はまだかわかない。新しい絵の具はぬれたように光る。そこから発散する油の香いも私には楽しかった。次郎は私のそば・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・そんなにして、まんまと遠い海の向うへ遁げた後に、またわざわざ殺されにかえる馬鹿があるものか、そんなふざけた手でこのおれが円められると思うのかというように、からからと笑いました。 ピシアスは、「しかしそれには、私がかえるまで、身代りに・・・ 鈴木三重吉 「デイモンとピシアス」
・・・それでも、兄は誇の高いお人でありますから、その女の子に、いやらしい色目を使ったり、下等にふざけたりすることは絶対にせず、すっとはいって、コーヒー一ぱい飲んで、すっと帰るということばかり続けて居りました。或る晩、私とふたりで、その喫茶店へ行き・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・ 向うでは、私のことに何も気附かぬようでしたので、私も知らぬ振りして他のお客とふざけ合い、そうして、その奥さんが夫と向い合って腰かけて、「ねえさん、ちょっと」 と呼びましたので、「へえ」 と返辞して、お二人のテーブルのほ・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・医学の為とか、あるいは学校の教育資料とか何とか、そんな事なら話はわかるが、道楽隠居が緋鯉にも飽きた、ドイツ鯉もつまらぬ、山椒魚はどうだろう、朝夕相親しみたい、まあ一つ飲め、そんなふざけたお話に、まともにつき合っておられますか。酔狂もいい加減・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・先日の私の、あんな、ふざけた手紙には、これくらいの簡単な御返事で適当なのだろうと思い知りました。決して、お怨みしているのではございません。とんでも無いことであります。その点は、なにとぞ御放念下さい。私は、けさの簡単なお葉書のお言葉に依って、・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・というのは、話の筋もアメリカ式のふざけたもので主題歌などもわれわれ日本人には別におもしろいとも思われないが、しかしこの映画の劇中劇として插入されたレヴューの場面にいろいろ変わった趣向があってちょっとおもしろく見られる。 たとえば劇場のシ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・最後の伯爵のガス排出の音からふざけ半分のホルンの一声が呼び出され、このラッパが鹿狩りのラッパに転換して爽快な狩り場のシーンに推移するのである。あばれ馬のあばれ方は愉快であるが、鹿の走り方は少しおかしい。あれは追わるる鹿ではない。モーリスが馬・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
出典:青空文庫