・・・評論の不振に活の入れられなければならない必要も痛感されつつ、今年が迎えられた。窪川鶴次郎の『現代文学論』は昨年の冬出版され、数年来の文学の動向を、個々の現象に即しながらそれを原理に近づいて論考した所産として、少なからぬ興味を有するものであっ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・この作家が、頽廃の中にさえヒューマニズムをみようといいながら、描写への疑問の理由を、「客観的共感性への不信」に置いていることも私たちの注意を惹くところである。形式を文学の内容の特殊なモメントとして観察する場合、高見順によって始められたこの説・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・しかし、市町村制改正の政府案から婦人公民権は削除され、当時、公民権賛成議員が多くて政府はその対策に腐心したと記録されている。政友民政両党から出された婦人公民権案は、ついに否決されたのであった。 ところが五年の議会ではまたこの公民権がもり・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・ 夏の準備に、あっちこっちで路普請や建て増しをしている。その坂のところでも僅かな平地に日当り悪そうな三階建が立ちかかっていた。一雨で崩れそうなごろた石の石垣について曲り、道でないような土産屋の庇下を抜けると、一方は崖、一方に川の流れてい・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・医者は、段々祖母の食慾不振を不安がり始めた。生活力が洩れる水のように、絶えず目立たず、然し恐ろしい粘り強さで減退し始めた。一昨年の大震災当時祖母は過度な苦労をした。実の娘と孫とを失った。以来、衰えが目についた。病気そのものはもう癒ったのに、・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・の関係者を起訴されるなら、それより幾千倍かの人々の不信と怒りを買っている公団の腐敗についての責任が明瞭にされることを欲します。日本の検察力を発揮しようとするならば、昨年初夏の怪死事件について、日本の検察として、明らかにするべき点を明らかにさ・・・ 宮本百合子 「「チャタレー夫人の恋人」の起訴につよく抗議する」
・・・ 画家たちは殆ど一人のこらず、紙や絹の上に実にきれいにしかも出来るだけ厚く絵の具を盛り上げることに腐心している。近づいて画面を見ると、どれも蒔絵のように塗られていて、私はこういうのをも尚描くということが出来るのであろうか、塗上げ術の問題・・・ 宮本百合子 「帝展を観ての感想」
・・・ これは北九州の或る坑山で実際にあった話であるが、或る坑山が所謂事業不振で閉鎖されることになった。会社の方では儲がうすくなったから、これ以上損をすまいと勝手に閉めるのだが、その日から女房子供を抱えて路頭に迷わなければならない数百人の労働・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・ひろげてつかわれているらしい伊藤整の衝動という用語をもって表現すれば、歴史に内包するこのような新しい文学への潜在的な衝動こそ、かえって多くの人間的欲求をもつ文学者の頭脳に反射作用し、逆に日本の知性への不信を表明させもしているのだろうと思われ・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
婦人作家が振わないと云うことがよく言われますね。之は女の特性によるものか、つまり女に天性その能力がないせいなのか、それとも他の条件によるものなのか。 婦人作家「不振」の声は今更のことではありません。昔から誰でもが言った・・・ 宮本百合子 「婦人作家の「不振」とその社会的原因」
出典:青空文庫